『人工知能に哲学を教えたら』 岡本裕一朗

 

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人工知能に哲学を教えたら

【本書を紹介する理由】

①本書を読んだきっかけ

書店をぶらぶらしていた時に、タイトルからして「面白そう!」と思ったので買いました。人工知能に哲学を教えたらどうなってしまうのか、当時の私は本書を読まずにはいられませんでした。

②本書をお勧めする理由

様々な思考実験を通して、仕事において欠かせない「考える力」を養うことができます。沢山の知識を持っていても、それを活用しなければ意味がないですよね!(私は仕事中考える力が乏しいので、本書を通して考える力を付けたいと思って読みました。)

 

【著者のプロフィール】

岡本裕一朗

1954年、福岡生まれ。哲学・倫理学者・玉川大学教授。九州大学大学院文学研究科修了。博士(文学)。九州大学文学部助手を経て、現職。

著書

『いま世界の哲学者が考えていること』(ダイヤモンド社

『フランス現代思想史ー構造主義からデリダ以後へ』(中公新書

『思考実験ー世界と哲学をつなぐ75問』(ちくま新書

 

【本の構成と読みやすさ】

①本書の構成としては以下のようになっています。

(1)AIは倫理を学びうるか?(AIvs正義)

(2)AIは何を知りうるか?(AIvs脳)

(3)AIは芸術を評価・制作できるか?(AIvs芸術家)

(4)AIの幸福とは何か?(AIvs恋愛)

(5)AIは人間の仕事を奪うのか?(AIvs労働者)

(6)AIにとって宗教は可能か?(AIvs宗教)

(7)AIは人類を破滅へと導くのか?(AIvs遺伝子)

②読みやすさとしては、読書レベル中級~上級の方向けです。順番は気にせず興味のある内容から読み進められるのが本書のいい所だと思います。

 

【本書の実用性】

はっきり言えば、仕事に直接活かせるような内容ではありません。しかし、仕事上で「考える」ことは皆さん当たり前のようにやっていますよね。本書では約30個の思考実験を体験することによって、自然と考える力が身に付きます。さらに、人工知能や哲学についての「教養」を養うことができます。

 

【本書の見どころ】

①トロッコ問題と自動運転についての思考実験

~トロッコ問題~

たまたま路面電車の傍を散歩していた人が、ブレーキの利かなくなった電車に遭遇した。その電車の前方には、5人の作業員がいてこのままでは轢かれてしまう。その時、散歩中の人の近くには進路を変えるスイッチがあり、それを引くと電車は右へ曲がる。ところが、右の線路の先には一人の作業員がいるので、右に曲がると一人を轢いてしまう。

上記のトロッコ問題が解決しなければ、自動運転はデビューできないと力説する人もいるくらいです。皆さんはどう考えますか?

 

②雇用を奪うのは人工知能ではなく、経営者

人工知能以上に優秀でしかも費用が安い従業員~

ある会社で、人工知能を導入すべきか、経営会議で議題となった。賛成派の意見として、仕事内容から見て、今までの従業員が行ってきた業務をより安価でこなし、導入費と維持費を考えても、経済効率は人工知能が上だということになった。しかし、ここで有力な反対意見が出た。それによるともっと安い給料で海外から優秀な人材を採用でき、その能力たるや、人工知能以上であることがわかったのだ。この時、次のどれを選択すべきか?

①今までの従業員 ②人工知能 ③人工知能以上の能力をもつ新たな従業員

ここからわかるのは、根本的な対立が「人工知能vs人間」ではないということです。人工知能を導入するのはあくまでも経営者の判断ですよね。

 

③人間と人工知能の幸福の違い

~幼児のように退行した聡明な人物~

聡明な人物が脳に損傷を受けて満ち足りた幼児のような精神状態に退行してしまった、と想定しよう。彼に残っているような欲求はどれも保護者によって満たしてもらえるので、彼には何の悩みもない。彼自身は当然にも自分の置かれた状況に嫌悪感を持っていない。彼の状況は、年齢と体の大きさを除けば、彼が生後3か月の赤ん坊だった時の状況と同じなのである。さて、こうした状況にあるこの人物は幸福なのだろうか?

哲学者であるトマス・ネーゲルによれば、このような状況は彼自身にとって重大な不幸であるとみなされるという。

その理由は、彼が脳の損傷を受けたことで、望んだはずの欲求やその実現ができないことにある。何もなかったならば、聡明な思考ができたにもかかわらず、その能力が失われ、発揮できなくなっているところに彼の不幸はあるのです。

つまり、幸福が成り立つためには、欲求が実現できるかどうか、自分の力が発揮できるかどうかにかかっている、と言えます。

私はこの文章を読んで「確かにな」と納得しました。現在の仕事において幸せと感じることがないのは、自分の力が発揮できていないからだと思います。皆さんは、仕事において幸福を感じられていますか?

 

【本書の最も大切な3点】

①「人工知能に仕事を奪われてしまう!」という漠然とした危機感に対して冷静になることができる。

②約30個の思考実験を通して読者の思考力が鍛えられる。

人工知能や哲学に関しての教養を養うことができる。

 

個人的に一番印象に残った部分は、2章で紹介されていた母親が子供に犬を教えることの難しさ(直示的定義の難しさ)です。母親が子供に対して「あれがワンワンだよ」と教えたところ、子供は犬の後ろにあったプロパンガスのことを「ワンワン」だと認識してしまったという内容です。私は仕事で初めて教わることに対して、誤って認識してしますことが多々あります。それは、直示的定義の難しさからきているのかもしれません。直示的定義の難しさを乗り越えて正しく認識するためにも、復唱して正しくとらえられているのかを確認することが大切だと思います。今後は復唱を改めて意識して、誤認を防ごうと思います。